
線維筋痛症外来
線維筋痛症外来のご案内
線維筋痛症の方のための外来です。
線維筋痛症は、全身に広がる慢性的な痛みや疲労感を主症状とする疾患で、日常生活に大きな影響を及ぼします。この病気は、主に中枢神経系の機能異常により痛みが過剰に感じられる「中枢過敏性」が関与していると考えられています。患者の多くは女性であり、発症年齢は30~50代が多い傾向にありますが、性別や年齢を問わず発症する可能性があります。
主な症状

- 全身に広がる痛み
- 痛みは、身体の特定の部位だけでなく全身に広がることが特徴です。痛みの程度は個人差がありますが、「鈍痛」「焼けるような痛み」「締めつけられるような痛み」と表現されることが多いです。
- 痛みの部位は一定せず、日によって変化することがあります。また、天候やストレス、疲労などによって痛みが悪化する場合があります。
- 軽い触覚や圧迫でも痛みとして感じる「アロディニア」がみられることがあります。
- 慢性的な疲労感
- 痛みとともに慢性的な疲労感が強く現れるのが特徴です。この疲労感は、十分な休息を取っても回復しにくいことが多く、患者さんの日常生活を著しく制限します。
- 特に、精神的・身体的な負荷がかかった後に疲労感が強まる傾向がみられます。
- 睡眠障害
- 患者の多くが睡眠の質の低下を訴えます。眠りが浅く、朝起きても疲れが取れない「非回復性睡眠」が典型的です。
- 夜間に痛みが強まり、途中で目が覚めることもあります。また、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)が併存することもあります。
- 集中力低下(ブレインフォグ)
- 思考がぼんやりし、集中力や記憶力が低下する「ブレインフォグ」がよくみられます。
- これは、仕事や日常生活での判断力や計画力の低下を引き起こし、患者さんの心理的な負担を増大させる原因となります。
- 症状の一例として、会話の内容を忘れる、物事を効率的に進められないなどが挙げられます。
- その他の症状
- 自律神経の異常
低血圧や起立性調節障害、胃腸障害(過敏性腸症候群など)、動悸やめまいがみられ、とくに悪天候の時や季節の変わり目に強く表れます。 - 抑うつ・不安症状
持続的な痛みや疲労感が心理的なストレスを引き起こし、うつ病や不安障害を高率に合併します。 - 筋肉のこわばり
特に朝起きたときに筋肉が硬直し、身体に力がはいらないことがよくみられます。
診断方法と基準
診断方法
線維筋痛症は、特定の検査で確定診断ができる疾患ではありません。そのため、患者さんの症状や病歴を詳細に評価し、他の疾患を除外することが診断の基本となります。
- 広範囲の痛みが3ヶ月以上続くこと
- 痛みは身体の複数箇所に広がり、単なる局所的な痛みではありません。
- アメリカリウマチ学会(ACR)の基準では、痛みの部位を特定し「広範囲痛指数(WPI)」を算出する方法が用いられることがあります。
- 他の疾患(関節リウマチや自己免疫疾患など)の除外
- 血液検査や画像診断を通じて、リウマチ性疾患や甲状腺機能低下症など他の疾患が原因でないことを確認します。
補助的検査
線維筋痛症は血液検査や画像診断で直接診断できる疾患ではありませんが、補助的検査を活用することで症状の原因や関連する要因を探ることができます。また、これらの検査は他の疾患を除外し、診断をより正確に行うためにも役立ちます。また治療が順調に進んでいるかを客観的に評価することにもつながります。
- 心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)解析
- 概要
心拍変動解析は、自律神経のバランスを評価するための非侵襲的な検査です。心拍のリズムがどれだけ変動しているかを測定し、交感神経(活動時の興奮を促す)と副交感神経(休息を促す)の働きを解析します。 - 線維筋痛症との関連
線維筋痛症患者では、自律神経の異常(自律神経失調)があり、このため体の内側や外側の環境変化にうまく対応できず心身がダメージを受けます。これが痛みの感受性や慢性疲労、睡眠障害に関与している可能性があります。 - 臨床的意義
HRVの低下は、自律神経の調節がうまくいっていないことを示唆し、線維筋痛症の症状の重症度やストレスのレベルや治療の効果を評価する指標となります。 - 脳波検査(EEG:Electroencephalogram)
- 概要
脳波検査は、脳の電気活動を測定し、神経系の機能を評価する方法です。特に睡眠時の脳波パターンを調べることで、睡眠の質や神経過敏性を確認できます。 - 臨床的意義
脳波検査を用いることで、脳の過剰な緊張や興奮、睡眠障害や神経過敏性が線維筋痛症に関連しているかを評価できます。さらに、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群、てんかんなどの併存症の発見や治療にも役立ちます。 - 血液検査
- 概要
血液検査では、炎症やホルモンバランス、栄養状態などを調べ、線維筋痛症に関連する可能性のある身体的な要因を評価します。他の疾患を除外する上で重要です。 - 調べる項目
- 炎症マーカー(CRP、ESR)
線維筋痛症は基本的に炎症性疾患ではありませんが、他の疾患(リウマチ性疾患など)との鑑別に使用されます。 - 甲状腺機能(TSH、T3、T4)
甲状腺機能低下症は線維筋痛症と症状が似ており、必ず除外する必要があります。 - 栄養状態(ビタミンD、鉄、フェリチン)
ビタミンD欠乏症や鉄欠乏症は痛みや疲労感を悪化させる要因となる可能性があります。 - ホルモンバランス(コルチゾール、性ホルモン)
慢性ストレスやホルモンバランスの乱れが痛みや倦怠感に影響する可能性があります。 - 線維筋痛症との関連
線維筋痛症を悪化させたり、治療の妨げとなっている要因を特定し、治療に活かすことができます
※補助的検査は線維筋痛症の特徴や関連因子を把握し、他の疾患を除外するために重要です。ただし、これらの検査結果のみで線維筋痛症の診断が確定するわけではありません。医師による問診や身体検査を中心に、包括的な評価が必要となります。
治療について【薬物療法】

線維筋痛症の治療において、神経伝達物質のバランスを調整する薬物療法は中心的な役割を果たします。以下は主な薬剤とその作用機序についての詳細です。
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
- 代表的な薬剤
デュロキセチン、ミルナシプラン - 作用機序
- 脳内の神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、これらの濃度を高めます。
- セロトニン ノルエピネフリンの調整は、痛み抑制の役割を果たす下降性疼痛抑制経路を強化し、慢性的な痛みを緩和します。
- 副作用
- 消化器症状(吐き気、食欲不振)、口渇、頭痛などがみられる場合があります。
- 抗てんかん薬
- 代表的な薬剤
プレガバリン、ガバペンチン - 作用機序
- グルタミン酸神経系を抑制することで、痛みを伝達する神経の興奮性を低下させます。
- プレガバリンは、電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットに結合し、神経伝達物質の放出を抑えることで鎮痛効果を発揮します。
- 痛みの軽減に加え、不眠症状や不安感の緩和にも有効です。
- 特に神経痛の性質を持つ痛みに効果が高いです。
- 副作用
- めまい、眠気、体重増加などが報告されています。これらの副作用は、服用初期に強く現れることがありますが、徐々に慣れることが多いです。
- 注意点
- プレガバリンは腎機能に応じた用量調整が必要です。
治療について【非薬物療法】
薬物療法はあくまで症状を管理する一つの手段であり、薬物症状だけで完治することは稀です。心理的・身体的治療法(認知行動療法、ヨガ、マインドフルネスなど)と組み合わせ脳の機能異常を修正していくことが重要です。
-
認知行動療法(CBT)
慢性的なストレスを引き起こすネガティブな思考の反芻、痛みへの不安と恐怖を和らげることにより、脳の機能異常を引き起こす慢性的なストレス負荷を減らし、脳の機能回復を促します。 - ペーシング(活動調整法)
- 概要
活動を無理なく調整し、疲労や痛みの悪化を防ぐ方法です。患者は適切な目標設 - 機序
繊維筋痛症の患者さんは「完璧主義 几帳面」の性格傾向が強く、「休むことに罪悪感を感じる」「休養を取ることはさぼることと感じる」などの感覚が強く、心身の限界を超えた過剰な活動を続け、心身の破綻から疼痛の増悪を繰り返す傾向が顕著です。適切な休養、過剰な活動を引き起こさないための活動強度の調整を学び、身に付けることによって脳の機能回復を促していきます。 - ヨガ、マインドフルネス、太極拳
- 概要
これらの身体的および精神的療法は、呼吸法、身体の動き、意識の集中を組み合わせ、ストレス軽減やリラクゼーションを促進します。また様々な研究から、これらの心身運動を行なうことで脳神経機能の回復が促され、痛みの中枢過敏性(痛みを過大に認識する傾向)を抑え、身体の痛みの受容体の過敏性を抑える事で線維筋痛症の症状を緩和できます。 - ニューロモデュレーション
- 概要
ニューロモデュレーションは、機能不全に陥っている脳神経ネットワークに刺激を与えることで、脳神経機能の回復を図ります。ニューロモデュレーションによつ治療にはいくつかの方法があるため、担当医と相談し個別に選択肢を選んでいきます。



統合的な効果
これらの治療法はいずれも、線維筋痛症の多面的な症状に対して以下のような効果を発揮します。
- 神経伝達物質の調整
セロトニン、ドーパミン、グルタミン酸のバランスを整え、痛みや疲労感、意欲低下を改善。 - 自律神経の安定化
自律神経機能を回復させ、体の内外のストレスに対して効果的に対処できる力をつけます。 - 下降性疼痛抑制経路の活性化
脳内の痛みの抑制システムを強化し、痛覚過敏を改善。 - 慢性炎症の軽減
ストレス軽減や炎症性サイトカインの抑制により、全身の炎症状態を改善。
これらの治療法を患者の状態や生活環境を考慮して個別化して組み合わせることで、線維筋痛症の症状をより効果的に軽減できます。
なぜ精神科で線維筋痛症の治療を受けるのか?
線維筋痛症は全身の慢性的な痛みや疲労感を特徴とする疾患ですが、その背景には気分や意欲 思考や判断なども含めた中枢神経系の機能異常が大きく関与していることが知られています。精神科では、こうした痛みを引き起こしてしまう広範囲の神経機能異常の問題に焦点を当てた治療を提供し、強力な治療効果を発揮できます。


医療関係者の皆様へ
慢性疼痛・線維筋痛症外来/プログラムのお知らせ
近年、線維筋痛症/慢性疼痛の患者様に対し認知行動療法・マインドフルネス・運動療法などの治療法が高い効果を有することが示唆されてきていますが、人的資源やコストなど様々な要因によりあまり普及していないのが現状です。このため、こうした治療法を提供するため線維筋痛症外来および治療プログラムを開設しました。
「この方には認知行動療法などの非薬物療法を試すことが有効だと思われるが、自分の病院では行っていない。」といったケースがあればご紹介頂けると幸です。
まずは担当医が診察し、患者様個々の症状、問題点、全身症状などに合わせたプログラムを作成し実施していきます。
プログラムの構成内容については以下の通りとなっています。
認知行動療法
慢性痛に対する疾患教育を行い、慢性痛を持続させる原因となっている破局視や恐回避信念などのスキーマ(誤った信念)の修正を図ります。また、過活動や極端な活動量の低下など行動的な問題に対しての行動療法的な介入を行います。
マインドフルネス
マインドフルネスとは「今、現在の瞬間に余計な判断を加えずに注意を向ける」トレーニングです。このトレーニングを積み重ねることにより、慢性痛患者に起こっている痛みの記憶の過剰な活性化やネガティブな反芻思考をコントロールする技術を身につける事ができ、痛み知覚の低減、気分の改善、認知機能障害の改善などに大きな効果が期待できます。
ヨガ
視床下部-下垂体-副腎皮質系の過活動、慢性の低レベル炎症、自律神経機能の異常を改善することが示唆されています。これにより不安、抑うつ、疲労感などの陰性感情、自覚的な痛みなどを低減させることができ、快感情を増やし行動活性化を図ることが出来ます。
運動療法
ストレッチング・低強度有酸素運動・太極拳などを行います。主に報酬系への刺激を通じて行動活性化を促し、意欲、気分の改善、自覚的な疼痛の改善を図ります。
慢性疼痛の心理学的アプローチの考え方
線維筋痛症をはじめとする慢性疼痛の治療において、「痛みをとる治療」(疼痛知覚へ直接働きかける薬理学的及び非薬理学的アプローチ)は残念ながら効果不十分なのが現状です。
そのため当院で採用している心理学的アプローチでは、疼痛知覚とフィードバックループを形成している認知・気分、行動の要素にCBT、マインドフルネス、ヨガ、運動療法を用いて介入し、間接的に疼痛知覚の軽快を図っていきます(下図参照)。
このアプローチは疼痛知覚の軽減が得られるだけでなく、同時に認知・気分、行動といった要素も改善させ、患者さんのwell beingを大きく向上させることができます。
慢性痛における痛み 感情 認知・気分のフィードバックループ
慢性疼痛・線維筋痛症外来医師紹介

略歴
千葉県出身
東京医科歯科大学医学部卒業
東京医科歯科大学医学部大学院
静和会浅井病院 勤務
柏メンタルクリニックなど勤務
柏駅前なかやまメンタルクリニック開院
所属学会・資格
- 医学博士(東京医科歯科大学)
- 精神保健指定医
- 精神科専門医
- 認定産業医
- 日本精神神経学会会員
- 日本線維筋痛症学会

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